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インスリン由来アミロイドーシス
(インスリンボール)について

インスリン由来アミロイドーシス(インスリンボール)とは

インスリン由来アミロイドーシスは、注射されたインスリンがアミロイド蛋白となって皮下に沈着するインスリン注射の皮膚合併症です。アミロイドが硬い腫瘤を形成したものに対し、私たちはインスリンボールと命名して2009年にLancet誌に報告しました1

インスリン治療歴が長く血糖コントロールが不良な場合にインスリンボールを疑う

インスリンボールは、高血糖のみならず低血糖の原因にもなります。低血糖で当院に救急搬送された1型糖尿病患者は、以前から頻繁に低血糖を起こしていました。生検により注射部位(腹部)の硬結がインスリンボールであることを確認し、インスリンの皮下吸収試験を行いました。

その結果、腫瘤部位ではインスリンがほとんど吸収されないのに対し、正常部位ではインスリンが良く吸収されて血糖値が顕著に低下しました。これより低血糖の原因は、普段はインスリンを腫瘤部位に注射して血糖値が上昇しているのに対し、増量されたインスリンを正常部位に注射することによって低血糖が生じているものと推測されました。

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【図1】インスリンボール症例の注射例。両側に腫瘍が認められる

その後、インスリンボールの7症例をまとめて報告しました2。6例は1型糖尿病で、1例は2型糖尿病であり、7例の糖尿病歴は平均20年、インスリン治療歴は平均18年でした。インスリンボール発見時のHbA1cは平均9.3%と血糖コントロールは不良でした。また、発見時の投与インスリン量は平均57単位/日で、注射部位を変更すると血糖コントロールが改善し、インスリン量は平均27単位/日と53%減少可能でした。

これら報告した症例は全てインスリン治療歴10年以上であったことから、長年インスリンを使用していて血糖コントロール不良の患者では、インスリンボールを疑う必要があると思います。

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【図2】インスリンボール最初の症例のインスリン皮下吸収試験(腫瘍vs.正常部位)

年に一度は注射部位を触診してインスリンボールの有無を確認する

インスリンボールは同一部位への繰り返し注射により生じることが明らかとなっています。インスリンボールを合併する患者さんは、つまみやすい場所に繰り返し注射することが多く、注射部位を左右に替えていても、ほぼ同じ位置に注射しています。同一部位の注射で痛みが少なくなることも繰り返し注射の要因となります。

このため、インスリン療法中の患者様に対しては、年に一度はインスリン注射部位を診察して硬結の有無を確認し、また注射方法を確かめることが必要です。特に注射部位の診察には必ず触診をすることが大切です。とりわけ、インスリン注射歴10年以上や、HbA1c 8%以上の例、投与インスリン量が多い場合や、予想外の低血糖を呈する例などでは、インスリンボールの確認のために注射部位の触診が有用です。触診で硬い腫瘤が認められたら、まずはインスリンボールを疑い、可能であればCTやMRIなどの画像診断を行います。

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【図3】インスリンボール最初の症例のMRI画像。脂肪とは明らかに異なる。

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【表1】インスリンボール症例のまとめ

腫瘤以外への注射を指示する場合は低血糖のリスクを考慮し、主治医に報告して投与インスリン量を調整します。例えば1回8単位以上と投与インスリン量が多い症例では、インスリン量を25~50%減量するなどの対処が必要です。インスリンボールは多様な病態を示し、過去には、細胞毒性のあるものや激しい炎症を惹起する症例を経験しました。インスリンボールの正確な頻度や危険因子、自然経過などについては、まだ不明な点が多くあります。今後、インスリンボールの研究をさらに進め、インスリンボールの予防法や治療法などを解明できればと思います。

※2015 JAPAN FITTER 第1回エキスパートワークショップ ランチョンセミナー講演より抜粋

参考文献

1. Nagase T, Katsura Y, Iwaki Y, Nemoto K, Sekine H, Miwa K et al. The insulin ball. Lancet. 2009 Jan 10; 373(9658):184.

2. Nagase T, Iwaki K, Iwaki Y, Kotake F, Uchida R, Oh-I T et al. Insulin-derived amyloidosis and poor glycemic control: a case series. Am J Med. 2014 May;127(5):450-454.

著者について

永瀬さん

著者について

東京医科大学茨城医療センター 代謝内分泌内科

准教授 永瀬晃正先生

専門:内分泌一般・糖尿病

日本糖尿病学会 専門医・研修指導医

日本内分泌学会 内分泌代謝科専門医・内分泌代謝科指導医

日本内科学会 認定内科医・総合内科専門医

臨床遺伝専門医(東京医科大学茨城医療センターHPより)